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    地面のほうを見ていた日。

    秋谷啓斗OFFICIAL FAN CLUB「アキヤリウム」

    2026/05/03 17:34

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    桜はもう、ほとんど見かけなくなった。

     

     

    すっかりあたたかくなって、上着もいらなくなって、街の色も、いつの間にか次の季節に移っている。

     


    少し前のことになるけど、雨が降った日のことを思い出す。

     

    あの時は、まだ桜が残っていた。

     


    満開に近くて、このままもう少し続くような気がしていたけど、夜のあいだに降った雨で、朝には景色が少し変わっていた。

     

     

    道の端や、水たまりの中に、花びらが泳いでいた。

     

     

    道行く人は、みんな少しだけ足を止めて、同じ水たまりを見ていた。

     

     


    自分も、その中の一人だったと思う。

     

     


    枝に残っているものよりも、地面のほうに目がいく。

     

     

    風が吹くたびに、少し遅れて落ちてきて、
    それが水に触れて、ゆっくり広がっていく。

     

     


    咲き始めて、満開になって、人が集まって、
    少しだけ生ぬるい空気が流れている。

     

     
    毎年だいたい同じ流れなのに、その時はちゃんと、桜の季節らしい空気になる。

     

     

    満開の良さもあるけど、
    散ったあとのほうに目がいくこともある。

     

     

    あれはあれで、ちゃんときれいで、
    その分だけ、少しだけ寂しい。

     


    今になって思い出すと、あの時のほうが、長く見ていた気がする。

     

     

    満開の時よりも、足が止まっていた。

     

     

     

    雨が降ると、少しだけ早く終わる。

     

     


    そういうものなんだろうけど、
    あまり「やめてくれ」とも思わなかった。

     

     

    むしろ、そのあとに残る景色のほうを見ていた気がする。

     

     

    濡れた地面に張り付いた花びらとか、

    水たまりの中で揺れていた色とか、

    断片だけが、あとから残っている。

     

     

    満開の時よりも、

    少し曖昧で、

    でも、そのほうが思い出しやすい。

     


    満開の時よりも、

    こういうほうが残ることもある。

     

     

    少し崩れたもののほうが、あとに残ることがある。

     

     


    使い込まれたもののほうが手に馴染んだり、
    少し音が外れたほうが、なぜか耳に残ったりするみたいに。

     

     

    きれいに整っているものとは、少し違うところに、記憶に残るものがある気がする。

     

     

    もう桜はほとんど残っていないけど、

     

     


    こういう日のことのほうが、あとに残るのかもしれない。

     

     


    秋谷啓斗

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